甲州怪談語り 弐

舞台を観、想いを致す

先日の『クリスマスケーキ・キャロル』のレビューにも書いたが、今、うちの会社の事業内容には舞台の主催を加えている。
新代表のあづささんが役員の頃から個人で活動していた事業を会社の業務に含めた。

今回、怪談をご披露いただいた城谷歩さんには、個人活動の頃にも二度ご登壇いただいている。1回は川越、もう1回は山梨・甲府で開催した「甲州怪談語り 弌」だ。両方とも成功裡に終わっている。今回は「甲州怪談語り 弍」ということで、うちの会社に運営主体を移してから初めてのご登壇をお願いした。
前回の「甲州怪談語り 弌」と川越の独演会に私は参加しておらず、今回、初めて城谷さんの語りを拝聴した。

初めて体験した怪談語り。率直に言って素晴らしかった。
そもそも私は怪談語り自体、初めての経験である。
昔から稲川淳二さんなど有名な怪談語りの方々の活躍は耳にしていて、一定の需要があることは知っていたが、経験する機会がなかなかないままに過ごしていた。

城谷さんの何が素晴らしかったかというと、抑揚と起伏だ。コントラストとも言う。笑いと恐れ、不安と高揚、生と死、陰と陽。
城谷さんの語りに私は笑わされたり、ぞっとさせられたり、しんみりさせられたり、さまざまな感情を刺激された。ジェットコースターのように。

この抑揚と起伏は、落語の世界で故・桂枝雀師匠が「緊張の緩和」論の中で唱えておられた。「緊張の緩和」論とは、緊張の後に訪れる緩和が笑いにつながることを説く理論である。

落語は20代の頃によくCDでも聴いていたし、本も多数読んでいた。
ところが私はホールでは落語を聴いた経験は何度もあるが、まだ寄席には行ったことがない。寄席で高座を聴いたことがない私に論を述べる資格はないことは承知だ。それを踏まえて言うと、今回の城谷さんのお話も、この緊張からの緩和に通じるものがあると感じた。
マクラで、世間に揉まれた観客の緊張を緩和し、笑いをとった後は、怪談開始のお鈴の音で一気に観客の緊張を高める。緩和から緊張へ、またその逆へ。城谷さんの話術に、私も含めた観客は翻弄される。

落語の扱う笑いと怪談の恐れとは、表裏一体にある。それを今回、聴きながら感じた。

まず、マクラである。
真打ちになるような一流の噺家は、マクラだけで高座を持たせられると言う。マクラを語りつつ、その場で観客の反応や客層を見切り、話を選びつつ、マクラのエピソードから噺に持ち込むと言う。一流の噺家はマクラだけでたくさんのネタを持っていて、私は柳家小三治さんの『ま・く・ら』という、マクラで語られるようなエピソードを集めたエッセイ集も持っている。

城谷さんがご自身でおっしゃっていたが、マクラは長くなる傾向にあると言う。自由気ままに語りつつ、脳内で噺を選んでおられるのだろう。
ただ、そのネタと間の持たせ方がうまく、面白く、マクラだけで十分に座を持たせられる実力をお持ちだと感じた。

おそらく私たちは、城谷さんの鋭い眼光から雰囲気を分析され、ふさわしい噺を吟味されていたのだと思う。実際、懇親会の場でも城谷さんからは、事前に用意した箇条書きのネタを見せていただき、いざ高座では違う噺(『玄関』『子捕ろ』『待っていた弟』)に変えたと教えていただいた。
その当意即妙な技は、まさに噺家としての技術の粋。素晴らしい技だと思った。

噺家は、新作落語や古典落語の膨大な噺ネタを手元に持っていて、その場のお客様に合わせて語る内容を自在に切り替えると言う。城谷さんも、Wikipediaによると500の話を手元にお持ちだそうだ。

落語は笑いで、怪談は恐れを刺激する。
落語は人の滑稽な姿を笑いに変えるが、怪談はこの世に在らざる超常現象が語られる。私たちの感情の奥底に棲む未知への怖れを刺激し、感情を呼び出す。
それに加えて、城谷さんの語りは、ただ恐れだけでなく、しんみりとさせることもできる。しんみりとした話も超常現象から呼べるのが、私にとって新しかった。
スティーブン・キングと言えば、誰もが認めるモダンホラーの帝王だ。その氏の紡ぎ出す小説の中にも、しんみりさせるハートウォーミングな話があったのを思い出した。ホラーや怪談には、そういう力もあるのだ、と。

今回、舞台後の懇親会もご一緒した。お隣でさまざまな話をさせていただいたが、こうした場においても座を持たせるのがとてもうまく、私としても参考にしなければと思った。

『クリスマスケーキ・キャロル』のレビューでも書いたが、うちの会社がなぜこうした舞台芸術の主催を事業に含めたか。
それは、こうした演者の語りのスキルを身につけるためだ。
IT業界であるからこそ、システムを利用する顧客との語りのスキルは重要になる。
私も研修講師や伴走支援などで、お客様に話す場面がしばしばある。
この時、ロジカルに、ビジネスライクに話すのではなく、お客様の感情を刺激し、その行動を変化させることを考えなければならない。論理的にビジネスライクに語るのは、システム開発現場の内輪だけでよい。今、技術者がやるべきは、DX、UI/UX、カスタマーサクセスなど、お客様のビジネスや業務を変えることであり、そこには感情の動きが必要となる。白けた能面のままでは、お客様はシステムがあっても何も変わらず、ただのわずかな効率化で終わってしまう。

お客様の感情をいかに動かすか。感情を動かし、行動の変革にいかに導くか。

その意味で、城谷さんの観客の感情を自在に刺激する技は、学びたいと思った。語りの中に「えー」や「えーと」や「まー」などの余計なフィラー言葉が出てこないのは当然だとして、間と無言の効果は、私も常に意識しなければと思った。これを身につければ、お客様に対してより高い価値を提供できるはずだ。

今回、ご夫婦でお越しいただき、ご夫婦の結婚記念日を観客やスタッフの皆さんとお祝いできたのは、思わぬ喜びだった。
懇親会でも少しだけご夫妻の馴れ初めをお伺いし、その後、甲府のホテルまでご夫妻をお送りする道中も、素敵なご夫婦だと好感を抱いた。

こうした演者の皆さんの人間味に触れられるのも、うちの会社が舞台芸術に関わる良さなのかもしれない。

城谷さん、嫁谷さん、ご来場の皆様、スタッフの皆様、ありがとうございました。

‘2026/1/11 山梨県立図書館 多目的ホール 14時半開演
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