個人事業主として独立してから法人化を果たすまで、ほぼ独力でやってきた私。
もちろん、完全に一人ではない。妻が経理をやってくれた時期もあったし、プロジェクトによってはパートナー企業や技術者と一緒にやってきた。
だが、人を雇い、人を育てなければならない局面が私にも到来したようだ。
人を雇うことは、すなわち人件費が発生することを意味する。雇った人にきちんと人件費を支払うことで、その人の生活を保障する責任が発生する。
ということは、それだけの売り上げを常に確保しなければならない。
普通に考えると、人を雇えるようになったのは、会社の成長にとってはめでたいことだ。
しかし、人が増えると、人件費は増加し、倒産の可能性も生じる。
今までは一人でやってきたので、倒産の可能性はあまり考えなくても良かった。
もし立ち行かなくなっても、自分の給料を削ればよいだけの話。
それでもだめなら廃業し、もし就職し直せるのなら、雇われる立場に戻ればよいだけの話である。
しかし、人を雇うことで、自分の給料を削ればよいだけでは済まなくなる。
給与が払えないからといって、社員の給与を減らすわけにはいかない。まして、払えないから辞めてもらうなどもってのほかだ。雇用主とは最後まで従業員に対して責任を持たねばならない。
それでもいよいよ万策尽きた時には、倒産も視野に入れなければならなくなる。
私にとって倒産という今まで考えていなかった可能性に目を向ける必要が生じた。
そんな時、本書を見かけた。
これを書いている今、求人サイトで二人に対して採用することを通知したばかりだ。年明けから仕事をしてもらうと伝えている。となると、私は、倒産を避けるために何をすべきか考えなければならない。
そこで、本書を読み始めた。
「はじめに」「文庫化に寄せて」で著者は、失敗の重要性を説いている。
「企業の最大の失敗は倒産である。今まで見向きもされなかった倒産事例には、同じ失敗を繰り返さないための教訓が詰まっている」(8ページ)
この言葉こそ、まさに本書の特徴を言い表している。
一般に、倒産という結果は成長した企業のみに起こりうる悲劇だと勘違いされる。
たとえば、上に書いた弊社の例に従うなら、個人事業主のうちは失敗する前に挽回できる。また、失敗したとしても、個人の収入が絶たれるだけで倒産の必要は無い。
だから、倒産とは、ある程度の規模にまで達した企業にのみ起こる事象だと思ってしまう。
しかし、著者は「成長路線にある企業ほど挫折しやすいという事実」を指摘する。
ある程度の規模とはどの規模を指すのか、その線引きは難しい。本書に出てくる倒産した企業は、弊社よりもさらに規模が大きい企業ばかりだからだ。
ところが、著者が言う通り、成長路線にある企業は、どこも倒産する可能性がある。成長路線とは、人を雇用しはじめた時から始まる。弊社のように一人のみの企業からさらに上を目指す企業がまさにそうだ。
弊社も失敗の可能性を真摯に受け止め、それに対して備えておかねばならない。それこそが本書を読む意義だ。
本書は失敗の人的原因の分類として、10の項目を挙げている。
1.欲得
経済的な利益や社会的な地位などに目がくらんだ失敗。第一章に挙げられている新日本技研の事例がこれに該当する。
2.気分
気分が沈んでいたり、高揚しているときに人は失敗を犯しやすい。第二章で取り上げられたオカノアソシエイツの事例がこれに該当する。
3.うっかり
見過ごしたり、忘れていたり、つい判断を誤ったという種類の失敗。第三章の北部通信工業の事例が参考例として挙げられる。
4.考え不足
思慮が浅かったり、思慮が全くされていない失敗。第四章のハイパーネットの事例が該当する。
5.決まり違反
ルールを無視したり、手抜きをしたり、ルールに対して無知だったりするための失敗。第五章のコンパイルの事例が該当する。
6.惰性
5とは逆に、マニュアルに頼って考え足らずであったり、慣れきってしまうことによる思い込みや、もって生まれた性癖で失敗を生ずるケース。第六章のピコイの事例が参考例として挙げられる。
7.恰好
対面にとらわれたり、必要以上に恰好をつけようとしたための失敗。第七章のサワコー・コーポレーションの事例が該当する。
8.横着
他人に責任転嫁したり、手を抜いたりするといった、本来やるべきことをやらなかったことから生じた失敗。第八章の北の家族の事例が参考例として挙げられる。
9.思い入れ
強い使命感や生き甲斐をもっていたことが、逆に思い入れが強すぎて失敗に至ることもある。第九章のカンキョーの事例が該当する。
10.自失
まったく未知の事態に遭遇したり、判断ができないような状況で自失状態になったための失敗である。第十章のイタリヤードの事例が参考例として挙げられる。
ここに挙げた記述は、全て本書の31-32ページからの抜粋である。
もちろん、ここに挙げたうちの一つの項目だけが企業の倒産理由になるわけではない。場合によっては複数の要因によって倒産することもあるだろう。
それぞれの章で取り上げられた事例をよく読み込み、弊社も同じ轍を踏まないようにしなければ。
私の場合、自身のパーソナリティをある程度自覚しているつもりだ。ここに挙げた倒産の罠にはまりにくい性格だと自負している。
たとえば、六つ目に挙げられた「恰好」は、あまり見栄を張らない私には無縁の失敗のように思う。しかし、今はそう思っていても、老いるとともに妙なプライドが頭をもたげてくるかもしれない。
ただ、だからといって過信してはならない。
一方で、他の要因には今も思い当たる節がある。それだけに、経営にあたっては一層の自重が求められるだろう。
本書を読んだことにより、好調な企業ほど失敗が潜むことを思い知らされた。
今回雇用してからしばらくの間、大きな変化を加えることは考えていない。
だが、どれだけ好調になろうとも、調子に乗るなかれ。また、見積もりにおいて安売りを行うなかれ。
共に肝に銘じたい。
この文章を書いたのは4年前だが、今、ようやく本稿をアップするにあたり、この4年間を振り返ってみる。
正直なところ、倒産の一歩手前まで苦しんだこともある。
上に挙げた例だと2と4が該当するだろう。弊社の場合、単価が安すぎたことが一番の理由だ。見積もりにおいて安売りを行うなかれと、この時に単価の改定を行ったが、それでもまだ安かったようだ。
しかし、ギリギリのところで弊社は踏みとどまった。そして、単価も上げた。それらの打った手が効果を上げたのか、来年からは安定できそうだ。もうこれで底は打ったと思える。
ただ、それで油断してはならない。本書で学んだことを肝に銘じ、倒産だけは避けつつ、より成長していきたいと思う。
2020/12/25-2020/12/25