名探偵コナン 隻眼の残像

映画を観、思いを致す

本作は久しぶりの劇場で見た「コナンシリーズ」だ。

ここ数年の作品を、私は見ていない。 レイトショーで見た本作も、その日の16時の時点では見るつもりはなかった。

それがなぜ5時間の間に一変したか。それは、本作の舞台となった国立天文台野辺山宇宙電波観測所を訪れたことがきっかけである。

連休の中、仕事の都合で清里に来ていた。「清里の森」という高原地にあるNOUEN cafeである。 朝の時点で、私も具体的な訪問の場所をよく把握していなかった。が、向かう先が清里と聞き、向かう道すがら、私から妻に「近くにコナンの今回の舞台になっている野辺山天文台があるから行ってみいひん?」と提案したところ、コナン好きの妻が即座に乗ってきた。

打ち合わせなどが終わり、敷地に入ったのが夕方4時である。 その時、来場客はかなりはけていた。

その前の打ち合わせの中でも、シャトルバスがひっきりなしに連休の行楽客を運んでいると教えていただいたので、私たちも敷地に入れるかどうか心配だった。

ここは、日常では見られない映える写真が撮れるスポットでもある。 六基のパラボラアンテナが空を向き、他にも一際目立つデカいパラボラアンテナも奥に控えている。 それぞれの足元には謎のレールが縦横に敷かれ、貨物ヤードを想起させる。ただ、平行に並ぶのではなく、直角に並んでいるように見えるのが、新鮮な感覚を私たちに与える。 それらのレールは何かをアンテナのもとに運ぶのかと思いきや、アンテナ自身を動かすために設置されているという。

私たちもすっかり異世界の風景に惹かれ、展示物の数々を見るうちに、コナンの作品が気になってきた。 もともと劇場に行く予定だった妻は、天文台を訪れたことでもうコナンを見たくてたまらなくなったのだろう、その場で甲府の映画館の時間を調べ、予約してしまった。

私自身もこの場に来ておいて観ない選択はないと思い、そのつもりになっていた。妻の提案に一も二もなく賛成した。

本稿ではネタバラシになってしまうので、これらのパラボラアンテナがどういう役割を果たすのかについてはあまり触れないでおく。 また、まだ本作を見ていない方に向け、本作を見る前に現地のパラボラアンテナを見ておくか、先に現場を訪れてから本作を見るべきかをしたり顔で語っておくと、後者をお勧めしたい。 でも、本作を見た方は、野辺山に訪れた方が良いとお勧めしたい。 つまり、聖地巡礼だ。

コンテンツツーリズムの一種である聖地巡礼ツーリズム。それは、何かの作品で使われた場所を訪れ、その作品世界をより深く理解したり、感情移入する営みを指す。 旅行に行く人の動機は人によって様々だが、何かの作品のコンテンツで使われた場所に行くことはあり得る話だ。 今回私たち夫婦が野辺山天文台に来たのも、まさにコンテンツツーリズムの一例だろう。むしろ分かりやすすぎて、例に挙げるのも恥ずかしいくらいだ。 アニメの作品で使われた場所を巡っているツーリストもよく見かける。

本作のパンフレットに載っていた脚本を担当した櫻井氏によると、原作の青山氏からは「長野県警のお話」とのリクエストがあり、そこから長野を舞台として選ぶ中で、野辺山に行き着いたそうだ。 大人の事情で長野県の観光担当からの話があったわけではなさそうだが、なるべく長野の幅広い範囲で脚本を考える必要があったのかもしれない。

今から述べるのは、私が感じたある違和感についてだ。 その解消と納得のいきさつこそ、コンテンツツーリズムの効果そのものだと思うので書いておく。

私が違和感を覚えたのは、長野県警に挨拶に立ち寄る必要がある毛利小五郎一行が長野駅に降り立つのはわかるが、阿笠博士率いる少年探偵団が、なぜ佐久平経由で野辺山に行ったのかについてだ。 私たち夫婦は、もちろん山梨側から野辺山に向かった。佐久平は野辺山からさらに遠い認識でいた。ところが本作では、東京から野辺山に訪れるのに佐久平から回るルートが選ばれている。これが私の違和感だった。

ところが、その疑問を解消すべく、東京からの交通手段を甲府周りと佐久平周りで比較してみた。 すると、本作で描かれたように佐久平から車で送迎すると、東京から二時間半で野辺山に着く。一方の甲府周りだと小淵沢まで2時間半かかり、さらにそこから車でも30分以上かかってしまう。なるほどと納得した。

そう考えると、高原列車としての小海線も、実は佐久平を拠点として考えるべきなのかもしれない。

この気づきは、前日に私が一人旅で、長野駅を訪れたときの印象によってさらに強まった。長野駅のコンコースには巨大な釣り広告が吊られ、人々が写真を撮っていた。長野駅前にある観音像も私は作中に登場することを知らずにすぐそばを通り過ぎたが、たくさんの人が写真を撮っていた。

この連休中、甲府駅と長野駅の両方に私は訪れたが、長野駅の方が圧倒的にコナンムードに染まっていた。 これはつまり、ツーリズム効果が長野県に圧倒的に高かったということなんだろう。

コナン一作品でどれだけの経済効果があるのかわからないが、相当数の観客を長野に引き寄せたのは間違いない。

コナンとは、コンテンツマーケティングとしては、かなり有力な作品なのだろう。 それこそかつての「男はつらいよ」などよりも比べ物にならないくらいだ。今はSNS等のメディアが発達している。その効果は絶大だと感じた。

今、これほどまでに支持されているコンテンツはあまりないように思う。 コナンシリーズは、この先もそのコンテンツツーリストを呼び込む商材として、様々な場所で引っ張りだこになるに違いない。 かつて、トラベルミステリーの第一人者と言われた。西村京太郎氏の作品のように、様々な場所にコナン君たちが出没することもあり得るかもしれないと思っている。

ただ、それに飽き足らず、もう一つコナンに期待したいことがある。 それは旅行客を呼び込むことではなく、移住客を呼び込むことだ。

もちろん、コナンシリーズに教訓色を強めて欲しくないし、純然たるエンターテインメントのままでいいと思う。 ただ、社会的な何かを要素に加えるのであれば、移住の促進もさりげなく入れてもらえないだろうか。 現地の生活を描くのも悪くないかもしれない。

今回、劇場で見てみて、巨大な影響力を有するコンテンツになっていることを感じた。 それならば、と思った次第だ。

‘2025/5/5 TOHO シネマズ 甲府

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